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京都地方裁判所 昭和41年(行ウ)4号 判決

京都市上京区猪熊通丸太町下ル仲ノ町五一五番地

原告

三星商事印刷株式会社

右代表者代表取締役

多田敬三

右訴訟代理人弁護士

柴田茲行

莇立明

平田武義

高田良爾

弁護士柴田茲行、同平田武義訴訟復代理人弁護士

吉原稔

京都市上京区一条通西洞院東入元真如堂町

被告

上京税務署長

喜多進

右指定代理人

陶山博生

向後估雄

羽根晃

宮本益実

藤田康人

大山隆正

主文

一、被告が昭和三九年三月三一日付で原告に対してした、昭和三五年一〇月一日から昭和三六年九月三〇日までの事業年度分以降の法人税青色申告書提出の承認を取消す処分を取り消す。

二、被告が原告の法人税について同日付で原告に対してした、

(一)  昭和三五年一〇月一日から昭和三六年九月三〇日までの事業年度分の所得金額を、金二六二万五、八〇三円と更正した処分のうち、金二三九万二、九九八円を超える部分(審査決定により取り消された部分)を除くその余の部分について金一七一万二、四三二円を超える部分

(二)  昭和三六年一〇月一日から昭和三七年九月三〇日までの事業年度分の所得金額を、金三三八万五、三九三円と更正した処分のうち、金三一三万六、五六二円を超える部分(審査決定により取り消された部分)を除くその余の部分について金二三八万七、九六四円を超える部分

(三)  昭和三七年一〇月一日から昭和三八年九月三〇日までの事業年度分の所得金額を、金三六四万一、九〇一円と更正した処分のうち、金三三三万五、二三二円を超える部分(審査決定により取り消された部分)を除くその余の部分について金二四三万九、三四八円を超える部分をいずれも取り消す。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、原告会社

主文同旨の判決(予備的請求の趣旨は第二、三項同旨の判決)。

二、被告署長

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

(請求の原因事実)

一、原告会社は、活版印刷を業とするもので、被告署長から法人税の青色申告書提出の承認を受けていた。

二、原告会社は被告署長に対し、(一)昭和三五年一〇月一日から昭和三六年九月三〇日までの事業年度(以下昭和三五年度という)(二)昭和三六年一〇月一日から昭和三七年九月三〇日までの事業年度(以下昭和三六年度という)(三)昭和三七年一〇月一日から昭和三八年九月三〇日までの事業年度(以下昭和三七年度という)の各法人税の所得を、それぞれその事業年度終了の二ケ月後である一一月三〇日、別表(三)「確定申告書所得金額」欄記載のとおり申告した。

三、被告署長は、原告会社に対し、昭和三九年三月三一日付通知書で、原告会社の昭和三五年度分以降の法人税青色申告書提出の承認を取り消す旨の処分(以下本件取消処分という)を、また同日付通知書で、原告会社の昭和三五年ないし昭和三七年度分各所得金額を、それぞれ別表(一)(イ)「更正所得金額」欄記載のとおり更正する旨の処分(以下本件各更正処分という)をした。

四、原告会社は、右各処分を不服として、昭和三九年四月三〇日、被告署長に対し別表(一)(ロ)「異議申立による所得金額」欄記載の金額にもとづいて、本件各更正処分について異議の申立をし、また同年六月八日、本件取消処分について審査請求をしたところ、大阪国税局長は、右異議の申立を審査請求とみなしたうえ、昭和四〇年一一月三〇日別表(一)(ハ)「裁決による所得金額」欄記載のとおり本件各更正処分の一部を取り消す旨の裁決をし、同時に、本件取消処分の審査請求を棄却し、その頃その旨を原告会社に通知した。

五、しかし、本件取消処分と本件各更正処分は、いずれも次の理由により違法であり、取り消されるべきである。

(一) 本件取消処分

(1) 理由附記不備の違法

本件取消処分の通知書には、その理由として「貴法人は、法人税法第二五条第八項第三号に掲げる事実に該当しますので、青色申告書提出の承認は、自昭和三五年一〇月一日至昭和三六年九月三〇日事業年度以降これを取り消します。」と記載されているだけで、取消の原因となつた具体的事実は全く記載されていない。このような記載は、旧法人税法二五条九項(現行法人税法一二七条二項)の要請する理由附記の程度をみたすものとはいえない。すなわち、右法条は、青色申告書提出承認の取消処分が、その承認を受けた者から、税法上の種々の特典を奪い、大きな不利益を与えるものであるから、処分庁の判断が恣意的に流れないように抑制し、その慎重さと合理性を担保するとともに、その取消処分に対する異議および訴訟手続での攻撃の対象を明確にさせて不服申立に便宜を与える趣旨の規定であるから、取消通知書には、単に該当条項を記載するに止まらず、どのような事実がその条項に該当するものと認定されたかが明確になる程度の具体的事実を記載しなければならない。従つてこのような具体的事実の記載のない本件取消処分は、理由附記に不備がある違法のものである。

(2) 実体的違法

原告会社には、旧法人税法二五条八項三号に掲げる事由に該当する事実はない。

(二) 本件各更正処分

(1) 理由附記欠缺の違法

本件各更正処分は、いわゆる白色申告者に対するものとしてされ、その通知書には、更正の理由が何ら記載されていないが、本件取消処分が前述の理由で取り消されると、原告会社は、依然として青色申告書提出の承認を受けているものになるから、原告会社に対する更正通知書には、理由を附記しなければならない。従つて、右通知書に理由附記のない本件各更正処分は、違法であつて取り消されるべきである。

(2) 実体的違法

原告会社の当該事業年度分の所得金額は、別表(一)(ロ)「異議申立による所得金額」欄記載のとおりであるから、本件各更正処分には、原告会社の所得金額を過大に認定した違法がある。

六、以上の理由により、原告会社は、本件取消処分の取消と本件各更正処分のうち、原告会社の自認する所得金額(別表(一)(ロ)「異議申立による所得金額」欄記載)を超える部分の取消を求める(予備的請求は、本件取消処分の取消しが理由がない場合に、本件各更正処分の取消を求めるものである。

(請求の原因事実に対する認否)

請求の原因事実中一ないし四の事実、および五の事実のうち、本件取消処分の通知書の理由の記載内容が原告主張のとおりであること、本件各更正処分がいわゆる白色申告者に対するものとしてなされ、その処分通知書に処分理由の記載がないことは認める。その余の事実はすべて否認する。

(被告署長の主張)

本件取消処分および本件各更正処分は、次の理由によりいずれも適法である。

一、本件取消処分

(一) 理由附記の程度

旧法人税法二五条九項は、「取消通知書には、その取消の基因となつた事実が前項(八項)各号のいずれに該当するかを附記しなければならない」と規定し、同条八項各号は、取消事由として具体的事実を列記している。従つて、青色申告承認の取消処分については、法文上理由附記の程度を抽象的に定めているにすぎない青色申告の更正処分、その異議決定や裁決の場合とは異なり、附記理由として該当条項を記載すれば足り、取消の原因となつた具体的事実を記載することまでは要求されていないといわなければならない。青色申告承認の取消処分は、更正処分とは異り、信憑性のある帳簿書類を完備し、またはこれに記帳をしていない納税者に対して、その帳簿書類の信頼性が欠如することを理由として青色申告書提出の承認を取り消すものであるから、個々の帳簿上の具体的数額は、直接問題とはならないし、法は取消理由を類型化し、かつ制限的に規定しているのであるから、どの条項で取消処分をしたのかを通知書に明示さえすれば、それで税務官庁の恣意は十分に抑制されたことになり、また納税者に対して不服申立の便宜もつくされている。このことは、旧法人税法二五条九項の立法経過からも明らかである。もつとも、同条八項三号所定の取消事由の内容は、他の各号のそれに比べて、やや具体性に欠ける点がないではないが、この場合でも、立法の当否は別として、解釈上具体的事実の記載を欠くときは当然に取消処分を違法と評価しなければならない程の実質的理由はない。しかも、取消処分に先行する税務調査の過程では、当該法人の経理担当者がこれに立ち会い、問題となる会計処理について論議弁明する機会が与えられるのであるから、その後に発せられた処分通知書記載の該当条項をみることによつて、いかなる判定に基づいて取消処分がされたかは了知できる。また青色申告の承認申請に対する却下処分は、法律上書面による通知や、理由附記を要求されていないが、このことと対比して、承認取消処分の理由附記について該当条項のみの記載で足りるものとしても、十分合理性がある。従つて、取消事由としてその該当条項の号数の附記されている本件取消処分通知書には、理由附記の点について何らの瑕疵がない。

(二) 原告会社には、次のとおり旧法人税法二五条八項三号に該当する事実がある。すなわち、

原告会社は、主要原材料である紙の出納に関する継続記録を作成せず、各事業年度の所得の計算のための棚おろしにあたり、その在庫を過少に計上し利益調整をしていた。また、訴外京都府立洛北高等学校に対する売上を正規の帳簿に計上しなかつた。この売上計上洩れは、昭和三五年から昭和三七年までの三年間にわたり総額金四六万八、七九四円で(内訳は別表(二)参照)、しかも、この売上代金の領収は正規の領収書を発行せずに行なわれていることからみても、これが原告会社の故意によることは明らかである。このほか、原告会社は、訴外大久保嘉人に対する売上(金一六万七、三四五円)、訴外堀川病院に対する売上(金一万七、〇〇〇円)、訴外有限会社七星堂印刷所に対する売上(金三万円)を帳簿に記載していなかつた。

このように、原告会社は、当然帳簿に記載しなければならない売上を故意に記載せず、しかも後述のように、原告会社の代表取締役である訴外多田敬三がその売上相当額を着服していたものであるから、旧法人税法二五条八項三号所定の青色申告承認取消事由である「帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性を疑うにたりる不実の記載がある」場合にあたることは明らかである。

二、本件各更正処分

原告会社の申告した当該事業年度の原告会社の所得金額は、(一)昭和三五年度-一五六万七、四三二円(二)昭和三六年度-二二五万〇、九六四円(三)昭和三七年度-二二五万九、三四八円であつたが、被告署長の更正(裁決により一部取消後のもの)による原告会社の所得金額の計算の過程を右の原告会社の申告額に加算、減算して示すと別表(三)記載のとおりである。以下これを項目別に説明する(以下(1)ないし(7)の符号は別表(三)の符号による)。

(一) 昭和三五年度

(加算するもの)

(1)  減価償却の償却超過額 一二万七、一五四円

原告会社が損金に計算した特別償却額一二万七、一五四円は、青色申告書を提出するものに限つて認められるものであるが、本件取消処分により認められないこととなつたものである。

(3)  売上 六九万八、四一二円

売上計上洩れ推計額である。

(二) 昭和三六年度

(加算するもの)

(1)  減価償却の償却超過額 八万二、七三八円

昭和三五年度分と同一理由による。

(2)  退職給与引当金の繰入否認額 六万二、九五九円

原告会社が損金に計算した退職給与引当金勘定への繰入額六万二、九五九円は、青色申告書を提出するものに限り認められるものであるが、本件取消処分により認められないこととなつたものである。

(3)  売上 八三万〇、三一一円

売上計上洩れ推計額である。

(減算するもの)

(5) 未納事業税の認容額 九万〇、四一〇円

昭和三五年度分にかゝる事業税の未納額で当年度の損金となるものである。

(三) 昭和三七年度分

(加算するもの)

(2) 退職給与引当金の繰入否認額 四万七、五六三円

昭和三六年度分と同一の理由による。

(3) 売上 一〇〇万九、五五八円

売上計上洩れ推計額である。

(4) 棚おろし計上洩れ 一九万〇、一六四円

昭和三七年度末における棚おろしの際計上洩れとなつた更紙一一〇連、金額にして一九万〇、一六四円である。

(減算するもの)

(5) 未納事業税の認容額 一〇万六、二八〇円

昭和三六年度分にかゝる事業税の未納額で当年度の損金となるものである。

(6) 減価償却超過額の当期認容額 二万九、一二一円

旧法人税法施行規則二一条一項の規定により損金に算入される金額(旧法人税法施行細則三条)

(7) 退職給与引当金の当期認容額 三万六、〇〇〇円

昭和三六年度分の更正により損金として認められなかつた退職給与引当金勘定への繰入額のうち、当期において益金に繰り戻した金額。

原告会社の申告に加算した売上計上洩れ金額は、原告会社が計上した、いわゆる公表売上金額にそれぞれ六パーセントを乗じて算出した(別表(四)参照)。

この乗率六パーセントの算出根拠は次のとおりである。

原告会社の代表取締役である多田敬三の個人資産には、当該事業年度間に少くとも金五八八万〇、九八四円の増加がみられた。昭和三五年九月三〇日当時の多田敬三の個人資産の内訳は、別表(五)A記載のとおり(但し、後に、これは別表(五)Bの「訂正後金額」欄記載のとおりであることが判明した)であり、昭和三八年九月三〇日当時のそれは、別表(六)記載のとおりであつて、これを対比させたものが別表(七)である。この増加部分のうち、増加原因の明らかなものは、金三三三万九、二九七円であり(別表(八)参照)、結局これを控除した残額金二五四万一、六八七円(以下これを別途収益と言う)の資金出所が不明であつた。そうして、多田敬三は、他に資金獲得の源泉がなく、また原告会社はいわゆる同族会社で、代表取締役の多田敬三が事実上その経営を支配していたが、前述のように、原告会社の売上の一部を意識的に計上せず、多田敬三が着服していることなどから、右の別途収益は、原告会社の事業により得られた成果で、原告会社の帳簿に記載されていない除外利益と認め、これを原告会社が当該三事業年度にわたつて取得したものとして最も合理的と判断される各事業年度の売上金額に比例して配分した。なお、六パーセントの乗率の算式は次のとおりである。

〈省略〉

なお、原告会社は、本件各更正処分と、多田敬三に対する認定賞与に対する源泉徴収にかかる所得税の徴収決定処分の一部取消処分とは矛盾し、結局本件各更正処分の推計の根拠には矛盾があることを自ら暴露していると主張するが、本来源泉所得税の課税対象は、給与等の支給の事実が明らかなものについて支給の都度徴収されるべき性質のものであるから、本件除外利益中審査請求の審理の際、原告会社が自認しているもの、または売上除外の事実が明らかなもので、多田敬三が消費したことが明確であるもの(別表(九)参照)は認定賞与とすることが適当と認められたが、右以外の金額については、原告会社が社外流出により代表者個人に支給の事実を明らかにしない以上、給与として源泉徴収のしようがなかつたため、裁決において原処分における認定賞与の源泉徴収の一部取消をしたものである。従つて、本件更正処分と源泉徴収所得税の決定処分とはなんら矛盾するものではない。

(原告会社の認否と反論)

一、被告署長の主張一(二)の事実のうち、洛北高校に対する売上を正規の帳簿に記載せず、その代金領収書も正規のものをつかわなかつたこと、および右売上年月日と金額が被告署長主張のとおりであることは認めるがその余の事実はすべて否認する。

仮に、被告署長が主張するような売上計上洩れの事実が認められるとしても、この金額は、被告署長が指摘する別途収益金の約四分の一にすぎず、また当該事業年度の公表売上金額のわずか一・〇三パーセントにすぎないきわめて少額のものであるから、この事実のみで、直ちに、旧法人税法二五条八項三号に該当するとはいえない。

二、同二の事実のうち、昭和三八年九月三〇日当時の多田敬三の個人資産表(別表(六))記載の「科目、明細、金額」、昭和三五年九月三〇日当時の個人資産表(別表(五)B)記載の「科目、明細、訂正後金額」、右の間の個人資産増加部分の増加原因を示す別表(八)記載の各項目と金額、別表(四)記載の原告会社の各事業年度における公表売上金額はすべて認める。また仮に本件取消処分が適法であれば、原告会社の三事業年度の所得金額の算定にあたり、原告会社の申告額に加算減算すべき項目、金額(但し、売上の分を除く)が、別表(三)記載のとおりであることは認め、その余の事実はすべて否認する。

被告署長は、原告会社がその売上の一部を故意に記帳せず、この部分を多田敬三がその個人資産に組入れて着服したと推認し、このことを原告会社に対する更正処分の理由としている。ところが、一方では大阪国税局長は多田敬三に対する「昭和三九年四月二五日付昭和三六年九月、昭和三七年九月、昭和三八年九月分の認定賞与に対する源泉徴収にかかる所得税の徴収決定処分ならびに源泉徴収加算税および不納加算税の賦課決定処分」に対し、原告会社より審査請求があり、昭和四〇年一一月三〇日付の裁決において給与所得分一〇〇万八、五七五円、源泉徴収加算税五万一、〇〇〇円、不納付加算税八万〇、四〇〇円の合計一一三万九、九七五円について、原処分の一部取消をしている。この一部取消は、多田敬三の別途収益の当該部分が原告会社の除外利益を取得することによつて生じたとの事実関係が具体的に明らかでないとの理由でされたものである。しかし、原告会社の除外利益がそのまま多田敬三個人によつて着服されその分だけ個人資産が増えたという事実を前記推計課税の根拠としながら、一方ではこのような事実関係が具体的に明らかでないとして所得税の所得の大部分を取り消すというのは、推計の基礎をくつがえし、本件各更正処分の根拠に矛盾があることを自ら暴露したものと言わざるを得ない。また、被告署長は、原告会社の売上金計上洩金額と認定した昭和三五年分六九万八、四一二円、昭和三六年度分八三万〇、三一一円、昭和三七年度分一〇〇万九、五五八円の算定根拠として、公表売上金額に一率六パーセントを乗じる方法によつたとしているが、これは三年度累積としてしか算出しえない別途収益を各事業年度の売上計上洩に配分するためのこじつけの論理以上のなにものでもなく、この算出方法は合理的根拠のない違法な推計課税であり、租税法律主義に違反する。

第三証拠

一、原告会社

甲第一号証、同第二号証の一、二、同第三ないし第五号証を提出、証人梶谷己之助の証言を援用、乙第一、二号証、同第八号証の一ないし三の各成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める。

二、被告署長

乙第一ないし第三号証、同第四ないし第六号証の各一ないし三、同第七号証、同第八号証の一ないし三を提出、証人藪寿悦の証言を援用、甲号各証の成立を認める。

理由

一、請求の原因事実中、一ないし四の事実(本件各処分の経過)は、当事者間に争いがない。

二、本件取消処分の適否について

(一)  原告会社は、本件取消処分はその通知書に理由附記の不備があり違法であると主張するのでこの点について判断する。

(1)  本件取消処分の通知書には、その処分の理由として、「貴法人は、法人税法第二五条第八項第三号に掲げる事実に該当しますので、青色申告書提出の承認は、自昭和三五年一〇月一日至昭和三六年九月三〇日事業年度以降これを取り消します。」と記載されているだけで、取消原因の具体的事実の記載がないことは当事者間に争いがない。

ところで旧法人税法(昭和四〇年法律三四号による改正前のもの)二五条九項(現行法人税法一二七条二項)は、青色申告承認取消処分について、その通知書には、「その取消の基因となつた事実が同項(八項)各号のいずれに該当するかを附記しなければならない。」と規定している。

被告署長は、右規定が、理由附記の程度について明確な規定のない青色申告の更正処分等の場合とは異り、附記理由として該当条項だけを記載すれば足りる旨明言しているのであるから、文理解釈上、それ以上に取消処分の基因となつた具体的事実の記載までは要せず、このことは右規定が設けられた立法経過からも明らかであると主張している。

しかし、二五条九項の文言が解釈上被告署長が主張するように一義的にしか理解され得ないものではなく、読み方によつては、該当条項を附記するだけではなく、その前提となるべき「取消の基因となつた事実」をも附記することを要求しているものと理解することができないわけではないし、その立法経過は、右規定を解釈するにあたつての参考資料になつても、これが直ちに解釈の決め手となるものではない。

従つて、右規定の文理解釈、立法経過からだけでは、該当条項の附記だけで足りるかどうかは、いずれとも決めることはできないのであるから、このような場合は、さらに進んで、法が理由附記を命じた趣旨、目的等に照らし、合理的な解釈を施すべきである。

(2)  一般に行政処分について、その理由を明示することを処分庁に対し要求する法令の趣旨は、処分庁の判断の慎重さと合理性を担保して、その恣意を抑制すると共に、処分を受ける相手方にその処分の理由を知らせて不服申立に便宜を与えることにあると解するのが相当である。従つて、この趣旨からすると、行政処分の理由は、処分を相当とする根拠を明らかにして相手方に理解できる程度に具体的に示されなければならない。

ところで、青色申告承認取消処分は、青色申告の承認を受けた納税者に与えられた所得計算上あるいは課税手続上の種々の特典を将来にわたつて全部失わせるという効果を伴う重大な不利益処分である。このことに着目したとき、青色申告承認の取消処分をするには、特にその理由を処分通知書自体の中で具体的に明確にすることが要求されるとしなければならない。

このようなわけで、二五条九項の規定は、取消処分の通知書には、単に該当条項を記載するだけでは足りず、取消の基因となつた具体的事実をも明示することを要求していると解するのが相当である。

もつとも、二五条八項は、青色申告承認の前提となる納税者の帳簿書類に対する信頼を裏切るような事実を類型化し、これを取消処分の基因とするものであるが、右法条の表現は、なお概括的で具体性に乏しく、取消の基因となつた事実が右規定の各号のいずれに該当するかを示されただけでは、処分の相手方としては、どのような事由によつて取消処分を受けたかを具体的に知ることは困難である。とりわけ、同項三号の場合には、これに該当する行為態様が多様にわたり、その表現も極めて抽象的で具体性に欠けるものであるから、同号に該当すると示されただけでは、どの帳簿書類に、どの取引に関してどのような不実の記載があつたとされるのかは全く不明である。従つて、処分の相手方が、取消の具体的理由を了知することは、到底困難であるといわなければならない。

そのうえ、前記通知書に単に二五条八項三号と記載するだけで足りるとしたのでは、前記の理由附記を要求する法の趣旨、ことに処分の相手方に取消の理由を了知させ、不服申立の便宜を与えるという趣旨はほとんど没却されることが重視されなければならない。

被告署長は、取消処分に先行する税務調査の課程で、納税者は、取消原因となつた具体的事由を了知し得るから不服申立に支障はないというが、税務調査の過程で、税務調査担当員によつて帳簿書類の点検結果に基づき個々の不実の記載が指摘されるにしても、それはあくまで調査の段階でのことにすぎず、処分庁の最終的判断として何を不実の記載とし、取消事由としたかを了知させることにはならない。仮に納税者が偶々税務調査の過程で指摘された事実と取消通知書に記載された条項とを総合して取消理由とされた具体的事実を推知できたとしても、それだけでは、取消通知書に理由の附記を要求する前記法条の趣旨の一面をみたし得たにとどまり、処分庁の処分の慎重さと合理性を担保するという他面の趣旨をみたしたことにはならない。また被告署長は、更正処分の理由は、所得金額の認定、計算が主たる問題であるのに対して、取消処分の理由は、帳簿の信頼性が主たる問題であるからその理由附記の内容程度に差異があつてもよいと主張するが、これらの処分の間に性質上の差異があつて通知書に記載すべき理由の形態にも差異のあることは是認できるが、このことから直ちに取消処分の附記理由が該当条項の記載で足りるという結論を導くことは困難であり、実質的にみても、更正処分よりはるかに利益侵害の程度が大きい青色申告承認の取消処分の理由附記の程度が、更正処分のそれより簡略でよいとは到底いえない。さらに、被告署長は、青色申告の承認申請却下処分の場合と対比してその主張の合理性を論じているが、すでに青色申告の承認を受けて所得計算上あるいは課税手続上の種々の特典が与えられている納税者に対しその特典を失わせる効果を伴う承認取消処分と、まだこのような特典のない納税者に対し、その特典の附与を拒否するにすぎない青色申告の承認申請の却下処分とは、処分の相手方に与える不利益の程度に重大な差異があり、到底これを同一に論じることはできない。

(3)  そうすると、本件取消処分は、二五条九項の要求する理由附記が具体的でない点で違法であり、取消を免れない。

三、本件各更正処分の適否について

被告署長の本件各更正処分が、本件取消処分後、いわゆる白色申告者に対するものとしてされたものであること、その処分通知書に理由の附記がないことは、当事者間に争いがない。

ところで本件取消処分が違法であつて取消を免れないものである以上、原告会社は、その処分当初から青色申告の承認を受けていた者として取り扱われなければならないから、処分通知書に同法三二条所定の理由附記のない本件各更正処分はいずれも違法であり取り消されるべきである。

四、以上の次第であるから、本件取消処分および本件各更正処分のうち、原告会社の自認する所得金額を越える部分の取り消しを求める本件各請求(主位的請求)は、理由があるから認容し、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 谷村允裕 裁判官 高橋文仲)

別表 (一)

〈省略〉

別表 (二)

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別表 (三)

〈省略〉

別表 (四)

〈省略〉

別表 (五)A

昭和三五年九月三〇日現在

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〈省略〉

別表 (五)B

〈省略〉

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別表 (六)

昭和三八年九月三〇日現在

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別表 (七)

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別表 (八)

〈省略〉

別表 (九)

〈省略〉

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